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分子認識化学分野

片岡 宏誌 教授 博士(農学)

その他の所属先: 東京大学農学生命科学研究科応用生命工学専攻(兼担)
Theme

昆虫内分泌学・昆虫生理学

Keyword

脱皮・変態、休眠、ペプチドホルモン、ステロイド

Message

脱皮・変態など昆虫に特徴的な様々な生命現象、特に発育を制御するホルモンに関する研究を大学院時代より行っている。この研究を通して、生物の発育タイミングがいかなる機構によってコントロールされているかを明らかにしたいと考えています。生命科学の分野でも日進月歩で新しい技術、手法が開発されている。そのおかげで10年前なら数年かかった仕事がわずか数週間でできるようになった。一方、今話題になっている研究もいずれは過去の研究として忘れ去られてしまうかもしれない。また、大学院時代の研究を一生継続できる人はほんの一握りでしかいない。そのなかで、研究というものはどのように進めるべきか、今何をすべきか、さらに歴史に残る研究へ発展させるには何が大切か、を大学院時代につかんでもらいたい。成果を出すスピードを他人と争うことのみにとらわれないで、自分がその研究の主役であることを自覚して頑張ってもらいたい。

研究者紹介

以下のような研究を展開しています。

昆虫の脱皮・変態の制御機構

(1)エクジソン生合成経路の全貌解明

 昆虫の脱皮・変態は、ホルモンで厳密に調節されています。それは、前胸腺という器官で合成されるステロイドホルモンであるエクジソンによって制御されているためです。エクジソンは、脊椎動物のエストロゲン受容体に似た核内受容体を介して様々な遺伝子の転写を制御しています。その結果、細胞増殖・予定細胞死・神経系の成熟・クチクラ形成などが誘導され、最終的に脱皮・変態が引き起こされます。しかし、その肝心のエクジソンの生合成酵素や生合成経路は、未同定の部分(Black Box)が存在します。これまで、私たちのグループでは、いくつかのエクジソンの生合成酵素を同定してきました。

参考文献

doi: 10.1016/j.jchromb.2012.12.014
doi: 10.1074/jbc.M111.244384
doi: 10.1242/dev.02428
doi: 10.1016/j.bbrc.2005.09.043
doi: 10.1111/j.1365-2583.2005.00587.x.
doi: 10.1074/jbc.M404514200

(2)エクジソン生合成を制御するシグナル経路の解明

 哺乳類のステロイドホルモンの合成・分泌は、視床下部-下垂体系を中心とするフィードバック機構によって制御されています。昆虫においても、エクジソンの生合成は、体内外の環境情報をもとに脳神経系で合成される複数のペプチドホルモンによってさらに調節されています。私たちは、前胸腺刺激ホルモン、前胸腺抑制ペプチド、ミオサプレッシン、PDFなどの脳神経系のペプチドホルモン群によって、エクジソン生合成が調節されていることを明らかにしてきました。

参考文献

doi: 10.1371/journal.pone.0103239
doi: 10.1002/cne.22517
doi: 10.1073/pnas.0907471107
doi: 10.1371/journal.pone.0003048
doi: 10.1271/bbb.70420
doi: 10.1016/j.mce.2007.05.008
doi: 10.1073/pnas.0511196103
doi: 10.1074/jbc.M500308200

休眠の分子機構

 昆虫は冬のような生育に不適な時期を乗り切るために「休眠」というシステムを獲得しました。冬に見られる休眠は、低温による受動的な生育停止ではなく、日長変化などの環境要因から冬の到来を予期して、あらかじめ成長を停止させるようなプログラムを発動させる能動的な適応戦略です。この休眠も脱皮・変態と同じくエクジソンによってコントロールされています。さらに、休眠も脳神経系のペプチドホルモン群による生合成の調節を受けています。また、卵での休眠にはエクジソンがリン酸化されて不活性化することで誘導されることが知られています。しかしながら、環境情報がどのように認識され、どのようにエクジソンの分泌抑制や不活性化につながるのか、についてはよくわかっていません。また、休眠から覚醒する際に必要なシグナルも同様に未解明です。昆虫が環境情報をどのように感知し、どのように内分泌シグナルに反映させて発生のタイミングを制御しているのかといった問題に取り組んでいます。

参考文献

doi: 10.1016/j.ibmb.2020.103491
doi: 10.1111/imb.12291
doi: 10.1038/srep41651
doi: 10.1371/journal.pone.0146619
doi: 10.1371/journal.pone.0060824

  • エクジソン関連ステロイド分析に用いているLC-MS/MS装置

  • ミオサプレッシン産生細胞(グリーン)の免疫組織化学:PNASの表紙を飾った。

研究者略歴

1977年 岡山県立総社高等学校 卒業
1981年 東京大学 農学部 農芸化学科 卒業
1983年 東京大学 大学院農学系研究科 農芸化学 修士課程 修了
1986年 東京大学 大学院農学系研究科 農芸化学 博士課程 修了(農学博士)
1986年 Sandoz Crop Protection 社 Zoecon Research Institute(アメリカ・カリフォルニア州)ポストドクトラルフェロー
1988年 日本学術振興会 特別研究員(東京大学)
1988年 東京大学 農学部 助手
1994年 東京大学 農学部 助教授
1999年 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授