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兼担分野
同位体生態学分野
  • 米田 穣教授

    同位体生態学・先史人類学・年代学

    食性、古人骨、骨考古学

私たちヒトと環境の関係を同位体生態学の視点から考えます

私たちヒトは動物の一種ではありますが、文化という特殊な方法で様々な環境に適応した特殊性を有しています。このヒトの特殊性を同位体という指標を駆使して研究する、自然人類学の研究が私自身のテーマです。とくに周辺の環境の多くの食料を依存していた狩猟・採集・社会である縄文時代の人々の生活を、生態学的な視点から記述する研究を考古学者と共同で行ってきました。反対に、人間の集落のそばで生活していた動植物のことを研究することで、栽培や飼育がいつ、どのように始まったか、研究することも可能です。日本には世界でもまれにみる高密度な遺跡情報が存在します。それを歴史学の枠組みだけでなく、人類進化の理解に活かすことが研究室の大きな目標です。
同位体を用いた手法で、直接目にすることができない動物や植物の生活を解読する手法の開発にも取り組んでいます。地球科学で開発された手法を遺跡から出土する遺物にどのように応用すると、どのような人間活動を復元できるか、新たな挑戦はとても楽しい研究テーマです。

【研究テーマ】

 私たちの研究室では、様々な元素で同位体比を測定するための環境を整えています。生物を構成する主要元素である炭素や窒素の同位体比を測定する安定同位体比質量比質量分析装置(EA-IRMS)を中心に、有機物中の酸素と炭素の同位体比を測定するTC/EA-IRMSや、無機物中の酸素と炭素の同位体比を測定するGB-IRMS、さらにガスクロマトグラフで分離した有機物を連続的に測定するGC-C-IRMSを用いて、個別アミノ酸の窒素同位体比を測定する装置を運用しています。
 さらに放射性炭素の存在比から、有機物の年代を測定する加速器質量分析装置(AMS)という大型の分析装置を学内共同利用のために運用しています。1ミリグラムの炭素で5万年前までの年代を測定できる装置ですが、さらに10マイクログラムでの測定を実現するための装置開発を行っており、従来では測定できなかった微量試料の年代を決定することが可能になりました。
これらの軽元素の同位体比測定に加えて、ストロンチウムや鉛などの重元素の同位体比は、本学理学系研究科や総合地球環境学研究所との共同研究で測定しており、前処理作業を行うための専用クリーンドラフトなどを整備しています。
  • 軽元素の安定同位体比を測定する安定同位体比質量分析装置

  • 放射性炭素年代を測定する加速器質量分析装置

これらの分析装置を駆使して、次のような研究テーマに挑戦しています

(1)食生活からヒトの適応の多様性を明らかにする

遺跡の発掘調査で見つかる古人骨は、過去の人びとの暮らしについて、多くの情報を内包しています。私たちは骨の分析から大人になってからの生活、歯のエナメル質の分析から子供のころの生活を読み解くことで、ある人物が数千年前にどのような人生を送ったのかをある程度復元することができるようになりました。過去の人びとの適応戦略の多様性を、多様な環境を有する日本列島を中心に研究します。

(2)ヒトと動物・植物の共進化と農業の起源を明らかにする

完新世になってヒトは周辺の環境を積極的に干渉して、より暮らしやすいニッチを構築してきました。そのなかで、特定の動物や植物をかいならして家畜や栽培植物として利用するようになりました。反対に、動物や植物からするとヒトとその環境を利用して進化したともいえます。共進化として家畜化・栽培化を考えて、私たちはヒトと動植物の両方向からそのプロセスを研究しています。

(3)ヒト生活史の個人差から社会の複雑性を考える

個人の生活は周辺の自然環境だけではなく、社会環境にも影響されて大きく変化します。骨の同位体比の個人差から社会の変化を読み解く研究を、日本列島の先史時代(縄文時代~古墳時代)や歴史時代の骨を用いて進めています。中国の新石器時代から青銅器時代に国家や文明が起こった背景についても研究プロジェクトが進行中です。卒業生には、アンデス文明や西アジアの先史時代を専門にしている研究者もいるので、さまざまな場所や時代のヒトを研究対象にすることが可能です。
  • 埼玉県神明貝塚で調査中の縄文時代後期の人骨

  • トウモロコシを食べる南米の家畜ブタ