基幹講座
人類進化システム分野
Theme
感覚系遺伝子の進化生態遺伝学~ヒト、野生霊長類、魚類の感覚進化に注目~
Keyword
色覚、嗅覚、味覚、霊長類、魚類、環境適応、遺伝的多様性、進化遺伝学
研究者紹介
科学が進歩したと言っても一般に単純と見下される向きのある単細胞生物ですら人類は完全に再構成することができていません。分子、細胞といったミクロレベルから個体、集団、生態系といったマクロレベルに至るまで生き物はすごくよくできているように思われ、しかも約38億年の大昔以来、様々に多様化しながら連綿と命を繋いでいます。この不思議な生命、そしてその進化という現象を少しでも理解したいという漠然とした思いが子供時分からありました。
私が大学生だった1980年代初頭に東京大学の学部学科で進化を表看板に掲げていたのは、当時の私の乏しいサーチ能力で知る限り、理学部の人類学教室だけだったように思います。それが人類学との出会いでもありました。分子生物学の勃興期とも重なり、遺伝子と進化という視点で人類とその近い仲間である霊長類の研究をすることを志しました。
免疫グロブリン遺伝子の塩基配列の進化をテーマに大学院での研究をスタートし、やがて遺伝子の機能レベルでの進化を検証することに関心が向かい、ポスドク研究は米国シラキュース大学でオプシンの遺伝子進化をテーマとしました。そこでは霊長類から離れ、トグリーンアノールというトカゲやハトを相手にしていました。それが現在の魚類から霊長類を対象にした色覚オプシン遺伝子の研究の元になっています。オプシン遺伝子を培養細胞系で発現させ、光受容体を実験室で再構成してどんな光波長に感受性を示すか調べ、進化という切り口で料理する訳です。
大学院時代から身近に野生霊長類の野外調査を見聞きしていた影響で、新領域で研究室を持ってからは中南米のサルたちの色覚オプシンの研究を野外調査に広げることを志向しました。中南米のサルたちは色覚が極めて多様であることが知られていたからです。調査地としたコスタリカの森でサルたちが色覚だけでなく、嗅覚や味覚、聴覚、触覚などあらゆる感覚を使って採食している姿を目の当たりにし、研究結果にもそれが現れてきたことで、オプシンと同じ遺伝子ファミリーに属する嗅覚受容体と苦味/旨味・甘味受容体の遺伝子にも注目するようになりました。また、その過程で、果実の匂い成分の化学分析や、受容体の培養細胞系での機能解析にも共同研究の幅が広がりました。
コスタリカのサルたちの色覚研究から、私たち自身であるヒトの色覚多様性にも関心が向かい、大きな研究テーマとなっています。一方で、様々な霊長類の分類群で、嗅覚受容体や味覚受容体の遺伝子ファミリーの進化多様化が別の大きな研究テーマとなっています。ヒトの色覚研究では集団の遺伝子解析を必要とする点、嗅覚や味覚受容体の研究では膨大な数の遺伝子を相手する点で、いわゆる次世代シーケンサーが威力を発揮します。これらのテーマではいわゆる「ドライ系」の研究、コンピューターの前に座って研究するスタイルが中心になります。
一方で、ゼブラフィッシュを実験室で飼育し、オプシン遺伝子の同定やオプシンの分光分析、トランスジェニックフィッシュを作出しての遺伝子発現制御の研究が大きく進みました。ネオンテトラとその近縁種や、グッピー、トゲウオなどのカラフルな小型魚類の色覚進化にも非常に興味があり、研究を進めています。
このような背景で主に以下の研究テーマを進めています。
・霊長類における色覚と嗅覚・味覚の進化
・ヒト色覚多様性の起源とその進化学的成因
・魚類をモデルとした色覚進化の適応的柔軟性
研究者略歴
1981年 | 3月 | 長崎県立長崎西高等学校 卒業 |
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1982年 | 4月 | 東京大学・理科II類 入学 |
1986年 | 3月 | 東京大学・理学部・生物学科・人類学課程 卒業 |
1986年 | 4月 | 東京大学・大学院理学系研究科・修士課程人類学専攻 入学 |
1988年 | 3月 | 同課程 修了(理学修士) |
1988年 | 4月 | 東京大学・大学院理学系研究科・博士課程人類学専攻 進学 |
1991年 | 3月 | 同課程 修了(理学博士) |
1991年 | 4月 | 日本学術振興会特別研究員(PD) |
1992年 | 1月 | 米国Syracuse University Postdoctoral Research Associate |
1996年 | 9月 | 東京大学・大学院理学系研究科 助手 |
1999年 | 4月 | 東京大学・大学院新領域創成科学研究科 助教授 |
2007年 | 4月 | 同研究科 准教授改称 |
2010年 | 10月 | 東京大学・大学院新領域創成科学研究科 教授 |