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分野・教員一覧
連携講座
応用生物資源学分野
  • 瀬筒 秀樹客員教授

    遺伝学、昆虫デザイン学

    カイコ、遺伝子組換え、ゲノム編集、シルク、有用物質生産

  • 黄川田 隆洋客員教授

    極限環境生物学・生物機能利用学

    極限環境耐性、ゲノム、常温乾燥保存技術

  • 内藤 健客員准教授

    植物育種学、遺伝資源学、植物遺伝学、植物ゲノム学

    作物近縁野生種、環境適応、全ゲノムシーケンス

  • 堀 清純客員准教授

    植物遺伝育種学

    イネ、遺伝資源、食味品質、農業形質、ゲノム育種

「面白い」と「役に立つ」を両立した応用生物資源学

30億年をかけて進化してきた生命。その精巧さや頑健性にはひたすら驚くばかりです。しかしその生命の不思議に感動するばかりでは物足りない人もいるでしょう。そう、あのいやらしい「それが何の役に立つというのか」という例のアレです。
応用生物資源学分野は、その「生物の力を人の役に立てる」ということに真正面から取り組む研究室です。食はもちろん、健康や福祉のために、生命の神秘を解き明かし、そしてそれを利用しまくる手立てを考えます。基礎的な研究も疎かにはしません。本当に必要なことなら、基礎的な研究にこそ十分な時間と労力を掛けなければならないことを我々は知っているからです。人類の、人類による、人類のための生命科学。それが応用生物資源学分野です。
なお、応用生物資源学分野は、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構の4研究室が提供する連携講座です。

瀬筒研の研究テーマ

<瀬筒研>の研究テーマは「遺伝子組換えカイコ」です。カイコは繭を作るために絹糸を吐きますが、これはタンパク質でできています。つまり、カイコは超高効率のタンパク質製造工場だと言えます。瀬筒研は世界最高峰の遺伝子組換えカイコ作製技術を持っており、これを使って絹糸タンパクの代わりにヒトコラーゲンやガン検査薬などの医薬品生産技術を開発しています。

(1)スーパーカイコの開発

我々は世界に先駆けて遺伝子組換えカイコ/ゲノム編集カイコを作りだす方法を開発してきましたが、まだまだ簡単には作れないのが問題です。そこで、もっと簡単で効率的な作製方法を開発しています。さらに、ゲノム情報を活用して、もっとすごいカイコ「スーパーカイコ」を作り出す「昆虫デザイン」を目指しています。例えば、巨大なモスラカイコ、何でも食べて育つカイコ、高温や病気に強いカイコなどを作りたいと本気で思っています。

(2)遺伝子組換えカイコによる有用物質生産

カイコは絹糸(シルク)を生み出すことで、約5000年もの間、人の役に立ってきました。遺伝子組換えカイコは、これまでに無い高機能シルクや、シルクタンパク質のかわりに医薬品原薬となるタンパク質を生産することができ、もっと人の役に立つことができます。我々は、様々な企業・公的研究機関・大学と連携して、様々な高機能シルクや有用タンパク質を生産して実用化を進めています。いくつかの化粧品や検査薬などの製品は既に実用化されていますが、さらなる製品化を進めるとともに、規制のハードルが高い動物用医薬品やヒト用医薬品の実用化を達成すべく、研究開発を進めています。

(3)スマート養蚕技術の開発と様々な絹糸昆虫(野蚕)の利用

SDGsの観点から、石油由来繊維から天然繊維の利用へのシフトが進んでおり、シルクはサステナブルな天然繊維として見直されつつあり、増産が期待されています。そこで、ICT技術などを組み込んだスマート養蚕技術の開発を行い、スマートな大量生産を可能にしようとしています。また、カイコ以外にも、ヤママユガ科(野蚕と呼ばれます)などの実に様々な昆虫や、クモなどの節足動物が糸を吐きます。それらの繭や糸は、強さ、伸び、硬さ、太さ、色などに様々な特徴があり、未利用の天然資源です。それらの糸の遺伝子を調べ、カイコに組み込んでそれらの特徴をもつ糸を作らせたり、カイコ以外の虫をゲノム編集で飼いやすくして大量生産する試みも始めています。

黄川田研の研究テーマ

<黄川田研>のテーマは「ネムリユスリカ」です。この生き物は「乾眠」できます。一度干からびても水があれば再生できるという、例のアレです。多くの生物が干からびると死んでしまうのは、脂質やタンパク質といった生体高分子が、乾燥で不可逆的に変性してしまうからです。一方、ネムリユスリカは、乾燥下でも生体高分子を変性させないための特殊な機構を進化の過程で獲得しました。これを応用すれば、冷凍保存が必要だった貴重な医薬品なども常温で乾燥保存できるようになるでしょう。そんな未来を目指して、黄川田研はネムリユスリカの乾眠機構が何によって成立しているのかを解き明かそうとしています。(ネムリユスリカの研究は、世界で唯一ここだけで行っています。)
  • 目で蛍光タンパクを発現させた遺伝子組換えカイコ

  • 乾眠状態のネムリユスリカ幼虫(©農研機構)

(1)ネムリユスリカの乾眠機構の解明

乾眠とは、蘇生可能なまま、一切の代謝がストップした状態です。脅威とも言えるこの生命現象を解き明かすために、黄川田研は、ネムリユスリカの飼育系を確立し、ゲノム解析を行いました。また、ネムリユスリカの培養細胞(Pv11細胞)にも乾眠能力があることを確認しました。現在、オミクス解析とゲノム編集技術を使って、ネムリユスリカの乾眠の分子機構の核心に迫ろうとしています。

(2)乾眠機構を応用した常温乾燥保存技術の開発

Pv11細胞に、外来性の遺伝子を導入させることで、任意のタンパク質を長期間常温乾燥保存できることが明らかになっています。この細胞に含まれている成分を活用すれば、試験管でも常温乾燥保存は再現できるはずです。乾燥したPv11細胞中にはRNAが分解されないまま蓄積している事から、タンパク質だけでなくRNAの長期常温保存技術にも貢献するかもしれません。生物試料を長期保存するには、「冷凍冷蔵する」という常識を壊したいと考えています。

(3)様々な極限環境に生きる無脊椎動物のゲノム解析

昆虫の多様性は、動物界でも目を見張るものがあります。干からびても死なないネムリユスリカのみならず、pH2以下の強酸性の沼でも生息できるサンユスリカ、石油の溜まったタールピットで生息可能なセキユバエなど、およそ普通の動物なら死んでしまうような極限環境に生きる昆虫が沢山います。これら昆虫を含めた、極限環境に生きる無脊椎動物のゲノムを解読していこうとしています。

堀研の研究テーマ

<堀研>のテーマは「イネ」です。より良いイネ、より美味い米、そういうものを作るのに必要な遺伝子は何か。農研機構の保存されている4万系統のイネを使って、形質情報とゲノム情報をひたすら比較することを通じて探っていきます。イネのゲノム配列が2005年に完全解読されてから15年以上経ちますが、まだまだ機能未知の遺伝子が3万5千個以上残されています。これらの未知の遺伝子が明らかになると、今以上に優れた形質を持つイネ品種を簡単に作出できるようになります。

(1)良食味や多収量を実現する遺伝子の単離・機能解明

世界中のイネ品種の中には、玄米品質、炊飯米食味、収量性、開花期、病害抵抗性、穂発芽耐性、根系形態等に優れた特徴を持つものが存在しています。そのような品種から有用遺伝子を見出して、その分子機能を明らかにしています。例えば、温暖化による高温の栽培条件下では、澱粉蓄積が遅延して米の品質が悪く低収量になってしまいます。それらを克服する遺伝子を見つけることで、温暖化時代の作物開発に繋げます。

(2)コムギやトウモロコシを代替できる次世代イネの開発

米は炊飯してごはんとして、小麦粉はパンやラーメンやクッキーとして、トウモロコシは粒のままやコーンスターチとして利用されています。突然変異により米の胚乳内のタンパク質組成を変化させると、パンが良く膨らむグルテンフリー米粉を作ることができました。米の澱粉やタンパク質や脂質を変化させる遺伝子を集積させて、コムギやトウモロコシ等の他作物の用途に利用できるイネを創出しています。

(3)ゲノム配列データを利用した新規育種手法の開発

イネゲノム全体を網羅する一塩基置換(SNP)情報を整備して、形質情報と合わせることで、未知の遺伝子を検出できる技術が開発されています。また、DNA情報(ゲノム配列データ)から、各個体の形質値を予測することが可能になってきました。そこで、構築した形質予測モデルを利用した品種育成の新手法を開発しています。現在は、イネの新品種を育成するためには10年程度が必要ですが、その期間を半分に短縮したいと考えています。

内藤研の研究テーマ

<内藤研>のテーマは「野生植物の耐塩性」です。農業には淡水が必要ですが、人類は降雨量より遥かに多くの水を農業に使っています。つまり、「農業のせいで湖沼や地下水が干上がる」という事態が進行しているのです。なので安易に考えました。「淡水がないなら、海水で農業をすればいいじゃない」と。でもそのためには、塩害に強い作物が絶対に必要です。そこで内藤研が注目しているのが、海辺に生える野生の植物です。多くの陸上植物が極めて塩害に弱いのに対して、海辺の植物はときに海水を浴びながらでも生育できるほど塩害に強くなっています。このような耐塩性がどのようにして進化したのか。それを解明し、応用することで、海水で栽培できる作物を作っていきたいと考えています。
 他に、遺伝資源のゲノムを片っ端から解読していくプロジェクトや、作物の栽培起源を探る研究を展開しています。

(1)野生植物の耐塩性進化に関する比較ゲノム解析

アズキの仲間には、内陸性の集団とそこから派生して海岸に適応した集団、逆に、一旦海岸に適応したものが再び内陸に進出して耐塩性を失ったものがあります。これらの「近縁だが耐塩性に大きな違いがある集団」の全ゲノム解読や全遺伝子発現解析を行い、比較することで耐塩性の獲得・消失を支配する遺伝要因を解明します。

(2)遺伝資源の全ゲノム解読

内藤研がある農研機構の遺伝資源研究センターには、20万点を超える作物の種子や栄養体(ジャガイモなど)が保存されています。これら保存系統の全ゲノム配列を解読していきたい、ということで、内藤研はオックスフォード・ナノポア社のゲノムシーケンサーPromethION 24を導入しました。これを使って、可能な限り多くの保存系統についてゲノムを決めていこうとしています。お金は掛かります。

(3)アズキの栽培起源解明

イネやムギなど、多くの農作物は中国・朝鮮半島を経て日本に伝わってきたものですが、アズキは逆かも知れません。つまり、アズキは縄文時代の日本で成立し、それが朝鮮半島・中国へと伝播した可能性があるのです。その仮設を検証するために、アズキとその祖先種ヤブツルアズキについて、集団ゲノム解析を進めています。
  • 堀研の仕事場は水田にあり。

  • 砂浜に繁茂するハマササゲ。その耐塩性は陸上植物最高レベル。