基幹講座
統合生命科学分野
植物パワーで地球環境を守り、役立つ細胞を創り出す
地球上の生物量の9割を占める植物はまさに地球環境を支えています。我々人間は0.01%を占めるにすぎません。地球環境を守るために、私たちは植物に秘められた「植物パワー」、特に再生力とストレス耐性力を研究しています。枝や幹が災害で切断されても器官を再生できるので、植物は何千年も生きることができます。動物ではギブアップするような環境ストレスにも植物は耐えることができます。その力の秘密をエピジェネティック制御の面から解き明かし、植物の生きざまをライブイメージング解析することで、さらに植物の能力を引き出す手法の開発に貢献します。また、サンゴ共生藻と刺胞動物との細胞内共生のような、光合成生物と非光合成生物との共生が成り立つための原理を理解することで、他の動物などには見られない新たな生物機能が発現する仕組みの解明につながります。さらに、光エネルギーの利用や二酸化炭素の固定といった植物の能力を動物に移植できれば、動物の機能もパワーアップできると考えられます。細胞融合や核酸合成などの最新の細胞工学技術や合成生物学的技術を駆使して挑戦しています。ワクワクするような刺激的な研究を一緒に進めて行きましょう。
【研究テーマ】
人生において実験に没頭できる時間は、実は非常に限られています。みなさんと時間を共有する2年から5年の間、目標に向かって研究できるように、学生一人一人の個性が最大限発揮できる興味深い研究テーマを選びます。夢中になって既成概念を打ち破り、フロンティア領域を切り拓く先駆者になりましょう。実験材料はシロイヌナズナやタバコなどの顕花植物、原始地球から火山性温泉に棲息していた紅藻シゾン、サンゴ共生藻として知られる褐虫藻、高機能食品の材料であるユーグレナ、医薬品生産に使用されるチャイニーズハムスター培養細胞などです。研究室の卒業生は、医薬品開発、農学系研究、食品・化粧品開発、バイオ光学機器開発などの仕事に就いて活躍しています。
(1)植物再生力や環境ストレス耐性力を生むエピジェネティックス制御機構
植物器官から多能性細胞塊(カルス)を作成して葉や茎を実験室内で再生させることができます。再生の過程には、カルスの段階から再生に備えるプライミング現象があります。また、環境ストレスをあらかじめ植物に与えておくと再生力もアップします。そのような植物の記憶・再生・ストレス耐性のメカニズムを、エピジェネティクス制御から解き明かします。
(2)植物パワーを生み出す核内クロマチン動態制御機構のライブイメージング解析
DNAとタンパク質からなるクロマチンは、環境ストレスに応じて3次元的に構造や核内配置を変化させます。時間軸をプラスした4次元空間制御の考え方で、植物核内のクロマチン動態をライブイメージングで解析します。シークエンスや生化学解析からだけでは見出させない「植物細胞の個性」に迫ります。
(3)植物パワーを動物培養細胞に移植したプラニマル細胞の創製
医薬品生産に用いられるチャイニーズハムスターの培養細胞やヒトのがん細胞と、ミニマム植物ゲノムを持つ原始紅藻類のシゾンを細胞融合して、動植物ハイブリッド細胞・プラニマル細胞の創製を行います。進化的な共生現象の再現や植物代謝回路の動物培養細胞内における作動を目指します。
(4)太古の光共生:植物パワーの源である葉緑体の起源と進化
陸上植物や藻類の持つ葉緑体は、真核生物の祖先がシアノバクテリア様の原核生物を細胞内に取り込むことにより獲得されたと考えられていますが、これが「どのような」仕組みで起こったのかについては、多くの謎が残されています。餌生物を捕らえる捕食装置や、光合成アンテナ装置などの起源の古い形質の解析を通して、始原的な葉緑体がどの様に進化してきたのかを明らかにしていきます。
(5)光共生系の進化と多様性:サンゴ礁から身近な水辺まで
サンゴ礁を形成するサンゴを始め、イソギンチャクやクラゲなどを含む刺胞動物の中には、褐虫藻と呼ばれる渦鞭毛藻の一種を細胞内共生させるものが知られています。また、川や池などの身近な水辺でも、藻類と非光合成生物とが様々な「光共生」生活を営んでいます。こうした光共生系を維持するための機構がどのように進化し、どのような環境変化への応答が起こることで現在のような多様な光共生系が生まれてきたのかを明らかにする研究を進めています。