基幹講座
医薬環境生理学分野
大戸 梅治 教授 博士(薬学)
OHTO Umeharu
Theme
構造生物学
Keyword
クライオ電子顕微鏡、X線結晶構造解析、免疫受容体、病原体認識、ウイルス
研究者紹介
私は東京大学薬学部、大学院薬学系研究科にて学部から博士課程を過ごしました。学部4年次の研究室配属の際、特に明確な目的意識も持たず、また研究室で何をやっているかもよく分からないまま、X線結晶構造解析を使ってタンパク質の構造を調べる研究室に配属されました。それ以降、今日まで約25年近くこの分野に身を置いて研究を進めてきました。不思議な縁があったのだと思います。タンパク質の立体構造を調べることでタンパク質が機能するしくみを調べるという構造生物学の単純明快な方法論が私の性に合っていたのかもしれません。また、当時はX線結晶構造解析がタンパク質の立体構造情報を得る最も主要な方法だったのですが、X線結晶構造解析にはタンパク質の結晶を作製するという非常に地道で根気のいる作業が必要です。結晶化の際の裏技的なちょっとした工夫や結晶の取り扱いのちょっとした違いが構造解析の成功の鍵を握る、そういったある意味職人芸的な雰囲気の漂う方法論にもどこか惹かれるものがあったような気もしています。
さておき、この25年の間に構造生物学を取り巻く状況は一変しました。約10年前に様々な技術革新が重なりクライオ電子顕微鏡を用いて近原子分解能での構造解析が可能になり、クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析が急速に発展してきました。現在では、サンプルの性状やプロジェクトの性質に応じてX線結晶構造解析とクライオ電子顕微鏡解析を使い分けるようになっています。また数年前には、AlphaFold2という高精度でタンパク質の立体構造を予測するプログラムが発表され、構造生物学を専門としない研究者でも構造を利用して研究を進めることが一般化してきました。また、目的の機能を持ったタンパク質を計算機上でデザインすることも可能になりつつあります。クライオ電子顕微鏡構造解析の発展で、構造解析に要する時間は飛躍的に短縮され、今では精製サンプルが得られればその日のうちに構造解析に成功することも珍しくありません。
目まぐるしく変化する研究領域ですが、チューブに入った無色透明な(そうでないときもありますが)タンパク質溶液と対峙することに変わりはありません。その中に含まれているタンパク質の姿を想像し「見えたらいいな」とワクワクしながら実験を進め、実際に構造が得られてこれまで分からなかったことが分かった瞬間の興奮は、25年前とあまり変わっていないようにも思います。研究を楽しむ気持ちを大事にしつつ、「見えないもの」を追い求めていきたいと思います。
研究者略歴
2002年 | 東京大学薬学部 卒業 |
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2004年 | 東京大学 大学院薬学系研究科 修士課程 修了 |
2004年 | 学術振興会特別研究員(DC1) |
2007年 | 東京大学 大学院薬学系研究科 博士課程 修了(博士(薬学)) |
2007年 | 東京大学 大学院薬学系研究科 助教 |
2013年 | 東京大学 大学院薬学系研究科 講師 |
2016年 | 東京大学 大学院薬学系研究科 准教授 |
2025年 | 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 教授 |