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分野・教員一覧
基幹講座
多細胞生物システム学分野
  • 菊地 泰生教授

    ゲノム生物学・比較進化生物学・寄生虫学

    機能ゲノミクス、バイオインフォマティクス、染色体削減、感染症、長寿

生物学の未開拓領域で新しい生物メカニズムを理解する

1)新しい研究プラットフォームの開発
線虫C. elegansはとても優秀なモデル生物で、C. elegansの研究はこれまでアポトーシスやRNAi等、いくつものノーベル賞級の発見を導いてきました。私たちはC. elegansの基礎的知識を基にC. elegans以外の線虫に注目することで、モデル生物では研究できない様々な興味深い生物現象を探求しています。特に寄生虫は、宿主体内の特殊な環境に適応するために驚くべき進化を遂げています。哺乳類を宿主とする寄生虫の場合、宿主体内は恒温かつ冨栄養で宿主からの免疫攻撃があるという、外界と比べて極めて特殊な環境で、そこに適応した寄生虫はまさに最も身近な「極限環境生物」であるといえます。よって、寄生性線虫はモデル線虫C. elegansにはない様々な特殊能力を持っています。例えば、C. elegansの寿命が20日から30日に延長できた」という研究成果は、不老長寿の手がかりとして大きなニュースとして取り扱われますが、寄生虫の中には年単位の寿命を持つものがいます。さらに、C. elegansが一生のうちに生産する子孫の数は200程度であるのに対し、驚くことに寄生虫は1日に数千の卵を継続的に産出します。これはまさに私達が目指すべき長寿ではないでしょうか。その他にも寄生虫は様々な特殊能力をもち、まさに研究シーズの宝庫です。しかし、寄生虫研究は取り扱いの困難さなどの理由から、その大部分が未開拓のまま残されてきました。私たちは、寄生虫モデルとC. elegans近縁種を使い、寄生機構やこのような寄生虫特有の生物現象のメカニズムの解明を目指しています。私たちはゲノミクスをベースとして、様々なオミクス解析(Dry)とフェノタイピイング(Wet)を用いて、対象となる生物学を研究しています。現在は、特に2つの線虫グループを主な研究対象としています。1)寄生性、長寿、染色体削減などのユニークな生物学的特徴を持つ動物寄生性線虫Strongyloides属、2)長年探し求められてきたC. elegansの姉妹種C. inopinatahttps://academist-cf.com/journal/?p=8481)。その他にも、植物寄生や昆虫寄生など幅広い特徴を持つ線虫や寄生虫を用いて、より広い生物学的問題に研究を展開しています。
  • 寄生虫Strongyloidesの生活環

  • C. elegans姉妹種C. inopinataの生活環

2)地球規模の健康問題解決への貢献
私たちの研究は生命科学の発展だけでなく、地球規模の健康問題解決への貢献も視野に入れています。人類の歴史は感染症との闘いの歴史でもあり、これまで人類は多くの感染症のアウトブレイクを経験し、それは様々な場面で歴史の転換点となってきました。近年のCovid-19のアウトブレイクも、その歴史の一つであり、今後も人類は新しい感染症との闘いを続けることになります。日本での寄生虫感染症は減少傾向ですが、地球規模では大きな健康問題として残されています。土壌媒介性寄生虫には実に世界の人口の1/4が感染していると推計されており、WHOの指定する「顧みられない熱帯病」の大半が寄生虫病です。私たちは研究を通してこのような寄生虫病の克服にも貢献していきます。
  • 研究室の様子

  • 線虫行動解析装置