基幹講座
医薬デザイン工学分野
Theme
先天性免疫細胞の免疫学
Keyword
先天性免疫、骨髄系細胞、C型レクチンレセプター、抑制性レセプター
研究者紹介
こちらでは、私のこれまでの研究経歴について、ご紹介したいと思います。
東京大学薬学部:
私は、東京大学薬学部の出身ですが、入学当時は工学部に進学するつもりでした。ちょうどその頃、モノクローナル抗体を使ってがん細胞を攻撃するミサイル療法が話題になり始めた頃で、俄然、免疫学や薬学に興味を持ち、薬学部への進学を決めました。東京大学大学院薬学系研究科では、リンパ球の活性化に関わる細胞内シグナル伝達機構に関わる研究を行いました。特に、博士課程においては、Tリンパ球をコンカナバリンAというレクチンで活性化した時にリン酸化を受けるタンパク質を精製し、部分アミノ酸配列の決定、cDNAクローニングを行い、LSP1と呼ばれているタンパク質であることを見出しました1~3。
医科学研究所で:
博士取得後は、当時小島壮明先生が主宰されていた東京大学医科学研究所 寄生虫研究部に助手の職を得ました。助手になるまで、寄生虫に関する知識はほとんどなかったのですが、私がタンパク質の精製(生化学)や遺伝子クローニング(分子生物学)のテクニックを身につけているということで雇ってくださいました。現在の日本は寄生虫とは縁遠い世界になっており、皆さんが身近に目に触れることがあるのはアニサキスくらいでしょうか。タラやサバなどの魚には必ずと言って良いくらい、アニサキスの寄生が認められ、うっかり生食などしようものなら、激しい胃の痛みに苦しむことになります。さて、アニサキスもそうですが、寄生虫の内、多細胞の蠕虫に感染すると、多くの場合、好酸球の増多や血中IgE(アレルギーを引き起こす免疫グロブリンの型です)が増えたりするTh2型の免疫応答を生じます。寄生虫研究部では、何故、蠕虫感染でTh2型の反応を生じるのか、寄生虫の抗原にそのヒントがあるのではないかとTh2型ヘルパーT細胞により認識される寄生虫抗原を同定しようと試みましたが、結局は目的を果たせませんでした。
アメリカに留学:
そうしている内に、教授から、助手を休職して留学をして良いとのお言葉をいただき、米国ワシントン大学セントルイス 医学部に移動したばかりのWayne M. Yokoyama教授の元でNK細胞に関する研究を行う機会を得ました。Yokoyama教授は、マウスNK細胞による自己非自己の識別において、MHCクラスI分子を認識するレセプターとして、Ly49と呼ばれる分子を同定していました。Ly49は糖鎖に結合するタンパク質であるC型レクチンに似た構造を持っており、Ly49によるMHCクラスI認識に糖鎖が関与するかという点がトピックの一つになっていました。私は、N型糖鎖修飾部位に変異を加えた糖鎖修飾を受けないMHCクラスI変異体を発現させ、Ly49が糖鎖修飾を持たないMHCクラスIを認識することを示しました4。この論文を出した直後に、日本に帰国し、東大医科学研究所に復職しました。また、新設された新領域創成科学研究科の当専攻の助教授に翌年から採用されることが、同時期に決定しました。
先端生命科学専攻での研究:
帰国後は、Yokoyama教授の許可を得て、Ly49のプロジェクトを継続しました。3人の修士一期生と一緒に、Ly49が認識するMHCクラスI上領域の同定5,6、ヒトNK細胞レセプターCD94/NKG2により認識されるHLA-E上領域の同定7、Ly49を阻害する人工ペプチドの創生8などの仕事を発表しました。また、NK細胞のリガンド未知の抑制性レセプターKLRG1のリガンドが3種の古典的カドヘリンであることを見出しました9。以上列記したレセプターはいずれもC型レクチン様構造を持つレセプターであり、ゲノム上にクラスターを形成して、存在していますが、ゲノム解析の進展により、その近傍の領域に骨髄系細胞に発現するC型レクチン様構造を持つレセプター群のクラスターがあることが明らかにされました。そこで、私はこれらの骨髄系細胞C型レクチンレセプターの研究を始めました。私たちのグループはそれらのレセプターのそれぞれに対する特異的な抗体を作成し、発現する細胞集団を明らかにした他10-13、それらの一つDCIR2のリガンドがbisecting GlcNAc構造を持つN型糖鎖であることを発見し、その認識様式を原子レベルで明らかにしています14。
1) J. Biochem. 113: 630, 2) J. Biochem.117: 222, 3) J. Biochem. 118: 237, 4) Immunity 8: 245, 5) J. Exp. Med. 193: 147, 6) Int. Immunol. 16: 197, 7) Eur. J. Immunol. 34: 81, 8) Int. Immunol. 16: 385, 9) J. Exp. Med. 203: 289, 10) Biochem Biophys Res. Com. 467: 383, 11) Biochem Biophys Res Com. 480: 215, 12) Biochem Biophys Res Com. 494:440, 13) Biochem Biophys Rep 24: 100840, 14) J Biol Chem. 288:33598
研究者略歴
1982年 | 埼玉県立春日部高等学校 卒業 |
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1986年 | 東京大学 薬学部 薬学科 修了 |
1988年 | 東京大学 大学院薬学系研究科 生命薬学専攻 修士課程 修了 |
1991年 | 東京大学 大学院薬学系研究科 生命薬学専攻 博士後期課程 修了、薬学博士 |
1991年 | 東京大学 医科学研究所 寄生虫研究部 助手 |
1995年 | 東京大学 医科学研究所 助手を休職、Washington University in St. Louis 医学部にて博士研究員 |
1998年 | 東京大学 医科学研究所 助手に復職 |
1999年 | 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 助教授 |
2007年 | 東京大学大学院新領域創成科学研究科 准教授 |