基幹講座
統合生命科学分野

Theme
共生生物学・ゲノム進化学
Keyword
細胞内共生、葉緑体、起源
研究者紹介
私は葉緑体の起源に興味を持って研究を続けてきました。生物学者というものは、子供の頃から生き物が大好きで、虫を捕ったり鳥を観察したり、草花の名前をいくつも覚えて・・・というイメージがあるかもしれませんが、私はそういうタイプではありませんでした。誤解を恐れずに言えば、私は生き物そのものに興味があるというより、「起源をたどる」ことに興味があり、生き物がたまたまそれに最も適した材料だった、とも言えるかもしれません。
生命現象は「パターン」と「プロセス」に分けて理解することができます。葉緑体は細胞内共生によって誕生した、と教科書には書いてありますが、それは、人類はアフリカで誕生した、いうのに似て、パターンとしての理解とも言えるでしょう。私が知りたいのは「どうやって?」つまり、どのようなプロセスを経てその過程が実現できたのか、ということです。葉緑体を生み出した細胞内共生のように、光合成生物を共生体として成立する細胞内共生を「光共生」と呼ぶことがありますが、この光共生の起源の謎に挑むため、太古の性質を残した「生きた化石」のような藻類のゲノム情報や細胞構造を解析しています。また、サンゴと共生藻の関係のような、自然界に広く存在する様々な「現在進行形の細胞内共生現象」を調べて、光共生に共通する普遍的な仕組みを明らかにする研究を進めています。さらに、サンゴの白化現象や一斉産卵など、マクロな生命現象と共生との関係を理解するための研究も行っています。
共生というと何か特殊な現象のように思われるかもしれませんが、ヒトと腸内細菌との共生の例からも窺い知れるように、地球上のほぼ全ての生物が他の生物と共生関係を営んでいる言っても過言ではありません。共生体から見れば、宿主生物の体内や細胞内は、多様な生育環境のうちの一つであり、生存競争の中で生き残る可能性を広げるチャンスと見ることもできます。共生体の宿主に対する応答は、自然環境への応答の延長線上にある、普遍的な「生き物としての柔軟さ」の現れでもあります。こうした環境応答の延長としての光共生の仕組みを、分子から細胞、個体、環境応答のレベルまで、マルチスケールな解析を進めることで、光共生の共通原理の理解を目指します。
研究者略歴
2001年 | 東京大学 理学部生物学科卒業 |
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2003年 | 東京大学 大学院理学系研究科生物科学専攻 修士課程修了 |
2003年 | 日本学術振興会特別研究員(DC1) |
2006年 | 東京大学 大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻 博士課程修了 |
2006年 | 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 博士研究員 |
2008年 | 日本学術振興会特別研究員(PD) |
2011年 | 日本学術振興会海外特別研究員(ダルハウジー大学、カナダ) |
2013年 | 自然科学研究機構 基礎生物学研究所 環境光生物学研究部門 博士研究員 |
2014年 | 同部門 特別協力研究員(公財・発酵研究所 若手研究者助成制度) |
2015年 | 東北大学大学院生命科学研究科 生態発生適応科学専攻 進化生物分野 助教 |
2020年 | お茶の水女子大学 基幹研究院 自然科学系 助教(クロスアポイントメント) |
2022年 | 東京大学大学院新領域創成科学研究科 准教授 |