基幹講座
遺伝システム革新学分野
発生過程の分子レベルでの理解からひも解く、生物の成り立ちと進化のメカニズム
遺伝システム革新学分野では、「擬態や変態」、「肢・翅・触覚や体形の適応進化」といった昆虫の興味深い発生現象、テロメアなどの特定部位だけに転移するレトロトランスポゾンの転移機構・適応戦略などを研究しています。分子・細胞から個体発生にいたる新規性の高い様々な現象を対象に、遺伝子発現の総和としてのネットワークシステムが適応的にどのように変革したのかを進化的視点も交えて解明しようとしています。
具体的には以下のことを研究しています。
【研究テーマ(藤原教授)】
(1)レトロトランスポゾン(LINE)の転移機構とその利用
LINEはほとんどの真核生物に存在する利己的遺伝子ですが、その転移機構の詳細は不明です。特定の染色体部位にのみ転移するLINEを利用し、LINEの転移に必要な構造や機能の全貌を網羅的に解明するとともに、部位特異的な新規遺伝子治療ベクターへの利用などを考えています。
(2)テロメアを標的とする分子機構
テロメアは通常テロメラーゼによって作られますが、テロメラーゼ活性の存在しない昆虫がいます。テロメア特異的LINEがテロメアを維持する可能性を追求し、テロメアを標的とする分子機構の解析などからテロメア機能の進化・起源を探っています。また、テロメアを標的とする新たな分子を設計し、細胞老化や腫瘍活性研究への応用を模索しています。
(3)昆虫の擬態の分子機構
動物の体表には様々な紋様が見られます。紋様の変異は動物の進化の過程で生活史や行動戦略の中に組み込まれ、昆虫などでは「擬態」として機能していますが、その分子的背景はわかっていません。そこで、「鳥の糞」の擬態紋様から「柑橘葉」紋様に切り替えるアゲハ、ベーツ型擬態をするシロオビアゲハ、様々な紋様変異系統が存在するカイコなどを用いて、幼虫体表の紋様や成虫翅の紋様形成を解析し、擬態の分子機構に迫ろうと考えています。
【研究テーマ(小嶋准教授)】
(1)付属肢の形づくりの分子機構
生物は、その姿・形を実に多様に進化させて周りの環境に適応しています。特に昆虫では、元々は同じ形態をしていた肢や触覚、口器といった付属肢を様々に進化させてきました。ショウジョウバエの成虫肢形成過程の理解を通じて生物の形づくりの分子機構を理解し、さらに、それがどの様に変化することで付属肢や昆虫種間での形態の違いをもたらすのかについても解明し、生物の形づくりや形の進化・多様性の謎に迫ることを目指しています。
(2)細胞外マトリックスによる体形の制御機構
昆虫は外骨格を持つ生き物で、その体はクチクラと呼ばれる細胞外マトリックスによって覆われています。クチクラは表皮細胞から分泌されたキチン繊維やクチクラ・タンパク質と呼ばれる様々なタンパク質などの物質から構成されています。昆虫の体型は丸っこかったり細長かったりと様々ですが、最近の研究から、クチクラ・タンパク質によって決定されるクチクラの性質が、昆虫の体型を決めるのに重要な役割を果たしていることがわかってきました。このような研究を通じて、細胞そのものではなく、細胞外に分泌された物質によって、どのように生物の形が制御されているのかを解明します。
(3)クチクラに「切取り線」をつくる分子機構
昆虫は、成長の過程で脱皮をします。脱皮の際には、古いクチクラを脱ぎ捨てて、新しいクチクラに覆われた個体が出てきます。この時、古いクチクラはランダムに破れるのではなく、必ず決まった場所が開裂します。つまり、クチクラには脱皮の際の「切取り線」があるわけです。この「切取り線」がどのようにして形成されるのか、その位置はどのように決まっているのか、そもそも「切取り線」として働くためのクチクラの構造はどのようなものなのか、などについて明らかにしようとしています。また、「切取り線」はすべての昆虫にとって、もっとも基本的で必須のものであることから、「切取り線」についての研究を通して、昆虫全体の進化についての理解を深めようとしています。