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基幹講座
細胞応答化学分野
  • 久恒 辰博准教授

    神経再生・脳老化制御

    神経炎症、アルツハイマー病、高齢者コホート研究

脳の老化を制御する

加齢や疾病などにより、いったん脳機能が障害を受けてしまうと、決して元には戻らないとこれまで考えられてきました。しかし私たちの研究から、脳組織の中に生じた神経炎症をうまく鎮めることができれば、脳組織の状態が正常に戻り、低下した脳機能が回復することが立証されてきました。神経炎症に主に関わっているのは、ミクログリアとアストロサイトという2種類のグリア細胞です。健常型と炎症型、二つの細胞状態をとることが判ってきました。加齢や疾病の条件では、炎症型のタイプになりやすいとされています。脳の老化を制御するという観点において、2種類のグリア細胞を炎症型から健常型に戻すための条件(シグナル)を見出すことが、最も大切な研究目標となってきます。

【研究テーマ】

(1)モデルマウスを用いた神経再生・脳老化制御メカニズムの解明研究

A) アルツハイマー病モデルマウス研究
アルツハイマー病では、脳内に生じたアミロイドペプチドの塊(老人斑)が引き金となって、神経炎症が広がり、ニューロン機能が低下して認知機能に関わる脳回路が障害されると考えられています。私たちの研究室では、アルツハイマー病に関与する病因遺伝子(アミロイド前駆体蛋白質、変異タウ蛋白質、リスク遺伝子ApoE4)を組み込んだモデルマウスを用いて、神経炎症と認知機能低下の関係を明らかにする研究を行っています。
B) 神経再生に関するモデルマウス研究
 アルツハイマー病などでは、神経炎症により新生ニューロンの成熟が阻害されてしまい、ニューロン新生の程度が非常に低くなっていることがわかっています。神経再生を誘導できれば、脳機能の低下をある程度防ぐことができると考えられます。そこで、新生ニューロンの生存を人為的にコントロールできるモデルマウスを用いて、神経再生を誘導するために必要なシグナル系および遺伝子を明らかにする研究を行っています。
C) ドーパミンニューロンの神経再生誘導に関する研究
 動機付けや報酬連合学習など、複雑な認知機能に関しては、神経伝達物質としてドーパミンを産生するドーパミンニューロンが中心的な役割を果たしています。ドーパミンニューロンは、中脳にある2つの神経核(腹側被蓋野(VTA)や黒質(SN))に存在していて、神経炎症により機能阻害を受けます。各種のモデルマウスを用いて、神経炎症の制御を介したドーパミンニューロンの神経再生誘導についての研究を行っています。

(2)脳老化制御と神経再生誘導に関するトランスレーショナル研究

 モデルマウスの研究から、脳の機能が低下した状態においても神経炎症を制御することができれば、神経再生が誘導できて脳機能が回復する可能性が見えてきました。それでは、神経の炎症はどのような方法により制御することができるのでしょうか?神経炎症は、2種類のグリア細胞が関係する反応であることから、これらの細胞を標的として、遺伝子的あるいは低分子物質によって、神経炎症応答を抑制することが有効であると考えられます。中でも、私たちの研究から、生体抗炎症成分は、体の炎症を抑えるとともに、脳内の神経炎症に対しても有効に作用することが、アルツハイマー病モデルマウス研究からわかってきました。この生体抗炎症成分は、脊椎動物の筋肉に多く含まれるオリゴペプチドであり、食品として摂取することも可能であるため、高齢者ボランティアの方々にご協力を頂き、この成分の効果をヒトで検証する研究も実施しています。
  • 神経再生のモデル系:成体海馬ニューロン新生

  • アルツハイマー病モデルマウスにおける神経炎症の様子

  • 高齢者コホート研究実施の様子

  • 研究室の様子