生命科学研究科 生命科学研究科 ― 東京大学大学院新領域創成科学研究科

令和1年度プレスクール論文賞講評

特別賞: 伊藤 海帆 (応用生物資源学分野)

課題:「ゲノム編集技術を使って作出した食物は、新たな遺伝子断片を組み込まない限り、従来の品種改良と同じであるとして日本でも2019年夏から遺伝子組み換え食品としては規制しないことになった。そのようなゲノム編集作物を作ってみたいか、その作物の有用性と安全性を論ぜよ。」(生命応答システム学分野)

:  自分自身の体験に基づいて新しいゲノム編集作物の作出を提案し、想定される幾つもの課題を克服するプランも合わせて提案している点が大変優れていると感じました。特に消費者と研究者が一緒になってオーダーメイド作物を作出するというプランは斬新です。十分にプレスクール論文賞に値すると考え、推薦することにいたしました。

(受賞レポート)

 

 

特別賞: 遠藤 拓哉 (動物生殖システム分野)

課題:「約3億年前には翼開長70㎝前後のトンボの仲間など巨大な昆虫が生息していた。今後の進化によってそのような巨大昆虫が再び出現する可能性はあるか。ないとするならばその理由を、また、あるとするならば、どのような進化が起こるのか、具体的かつ科学的に論ぜよ。」(遺伝システム革新学分野)

:  他の論文が古代と現代の酸素濃度の違いに関する議論に終始する中で、水生昆虫であれば巨大化による体重増加の影響を受けにくいことや、食性の変化によって巨大化に伴う敏捷性の低下による捕食率の低下を補うことなど、現状での巨大化の可能性について論じているところがとても独創的で、プレスクール論文特別賞に相応しい論文だと思います。

(受賞レポート)

 

 

特別賞: 鍜治 桃子 (遺伝システム革新学分野)

課題:「一般に栄養塩が多く供給される海域では、生物量が多く、漁業生産が高いことが知られている。しかし、栄養塩の供給が過剰となると(富栄養化)、海洋生態系から得られる惠み(生態系サービス)がむしろ減少することがある。その具体的な事例について、原因、生態系の変化、社会への影響について記述せよ。」(先端海洋生命科学分野)

:  鍛冶桃子氏のプレスクール論文は、瀬戸内海を具体的な例として、富栄養化による生態系サービスの減少要因および生態系の管理の在り方について取り上げている。人間活動による富栄養化の進行が、植物プランクトンの過剰増殖による赤潮、および有機物生産増加に伴う貧酸素水塊を発生させた原因であることが簡潔に記されている。本論文で特に優れていることは、海域の海水交換に関する文献にあたりその内容を十分に理解した上で、海域の地形や流動構造によっても富栄養化に伴う影響が異なって現れることを記しているところである。また、富栄養化に対応する法律や施策の概要を記すと共に、人為的な環境変動に対するこれら対応策が、科学的知見の不足により万全ではなく、“人為的貧栄養化”など新たな環境問題が発生したことを説明している。本論文は、参考文献を十分理解した上で、設問が求める内容を簡潔にロジカルに記述していること、また環境問題への対応には充実した科学知見が必要であることを示したことを高く評価し、プレスクール論文賞に推薦する。

(受賞レポート)

 

 

特別賞: 鎌倉 大輔 (がん先端生命科学分野)

課題:「現存する生物に遺伝的改良を加えることにより、新たな利用法が付与される資源生物を考案しなさい。その際、どの遺伝子を付与、あるいは改変するのか具体的な遺伝子名を記述すること。」(資源生物制御学分野)

:  本論文は、線虫をがんの診断に使用するという研究報告からヒントを得て、植物にがん患者特有の匂いに反応する嗅覚受容体を導入することでがんの診断に利用することを考察したものである。基本的なアイデアは、線虫の研究内容をそのままなぞったものであるが、がん患者の匂いに対する応答を元来植物が持つ環境ストレスへの適応反応の中にくみ込み、植物の形態変化を読み取ることによって、がんの早期検出を簡便かつ日常的に行うことができるように考案したのは相当にユニークであると言える。文章は冗長な部分もいくらか見られるが、全体としてまとまっており、プレスクール論文賞受賞にふさわしいと考える。

(受賞レポート)