生命科学研究科 生命科学研究科 ― 東京大学大学院新領域創成科学研究科

平成29年度プレスクール論文賞講評

優秀賞: 山口 晴香 (同位体生態学分野)

課題:「生物を蘇生可能なまま長期間保存技術を確立する上で、現時点で障壁となっている問題は何か述べよ。 また、このような生物保存技術を開発によって得られるメリットと問題点を、生物学・生命倫理・経済学など多面的な視点に基づいて論じよ。」(応用生物資源分野 黄川田隆洋 准教授)

:  本論文は、生き物を蘇生可能なままで保存する方法という、一見するとSFチックな途方もない問いに、誠実に回答していた。設問上は、長期間保存する技術を問うているのに、ほとんどの回答は凍結保存に固執したものが多かった。一方、本論文は、凍結と乾燥という複数の技術での障壁となる問題を、要領よく整理しながら提示していた。また、生物長期保存技術の開発がもたらす影響を、宇宙開発・農林水産業・医学・生態学などの多面的な視点で評価を行っていた。論説らしく、メリットとデメリットをバランス良く論じている点も評価ができる。加えて、丁寧に発表論文を引用して論拠を示しながら、自らの論理を構築している点は非常に望ましい。総じて本論文は、「論文スタイル、適切な引用、個人の考えと先行研究から分かる事実の区別、記述内容そのもの」など全ての点で高いレベルで記述できていることから、プレスクール論文優秀賞に相応しい論文である。

(受賞レポート)

 

 

特別賞: 古賀 淳也 (細胞応答化学分野)

課題:「有性生殖を行う生物のほとんどが2つの性から成っているが、3つ以上の性があることに対するアドバンテージを考察しなさい。また、もし3つ以上の性があることが有利な生物がいるとしたら、それはどのような生物でどのような理由によるものなのか、これらについて考えられることを記しなさい。なお、この生物は現存するものに限らず、想像上のものでもよい。また、雌雄同体はここでは第3の性とはみなさない。」(資源生物制御学分野 青木不学 教授・鈴木雅京 准教授)

:  有性生殖を行う大半の生物が2つの性からなることについて、そのアドバンテージを説明する魅力的な仮説や説得力ある論文がすでに存在しているにも関わらず、あえて第三の性を提案し、そのアドバンテージを述べるという挑戦的な課題に対して、3つの性をもつ「昆虫」を想定し、その特徴とアドバンテージについて具体的かつ想像力豊かな説明がなされているという点できわめて高く評価できる。一方で、思い付きに近い論理的な薄弱さが随所でみられること、また、本論文において提案されている昆虫のアドバンテージについて、既知の生物学的知識に基づいた説明がなされていない箇所がみられたため、それらについてはさらに十分な考察や補足説明を加えるよう指示した。だが、第3の性がいかなるものかを推察する上で、本論文で描かれている第3の性をもつ昆虫は、申し分の無いたたき台役を演じることができると言える。実際、昆虫の性を研究する私はこの論文を読みながら、論文中で描かれている第三の性をもつ昆虫にどのような特性を付与すれば進化を生き抜くことができるか考えることに夢中になってしまった。昆虫は人間の想像を超越した多様性に満ちている。先日も雌がペニスをもつシロアリが発見され、この発見をした日本人はイグノーベル賞を受賞している。やがて第三の性をもつ昆虫が発見される日が来ると私は信じてやまない。

(受賞レポート)

 

 

特別賞: 川端友梨亜 (資源生物制御学分野)

課題:「遺伝子治療にはどのような可能性があるか?またその実用化に向けた課題や問題点などをあげ、その解決方法を考えよ。」(遺伝システム革新学分野 藤原晴彦 教授)

:  遺伝子治療の過去から現在に至る研究の流れ、問題点や課題、さらに将来へ向けての展望などについて、コンパクトであるがよくまとまっている。爆発的に普及しつつあるCrispr/Cas9が今後遺伝子治療に対してどのようにアプローチできるのかについても具体的に述べられればさらによかったかもしれない。

(受賞レポート)

 

 

特別賞: 鈴木 健吾 (応用生物資源学分野)

課題:「ゲノム情報やビックデータは生命科学の研究手法や方向を変えてきている。やがて来るAI時代でどのような生命科学研究の新しい方向性が誕生すると考えられるか、そのアイデアを書きなさい。」(生命応答システム分野 大矢禎一 教授・鈴木邦律 准教授)

:  AIの特徴と現状を的確に踏まえた上で、AIが膨大な情報を処理することにより、これまでの科学分野の垣根を取り払うことで、分野の融合に貢献する可能性を論じている。人間が望むAIの理想的な姿を説得力をもって論じている点で、プレスクール論文に相応しいので、推薦する。

(受賞レポート)