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分野・教員一覧
基幹講座
人類進化システム分野
  • 河村 正二教授

    感覚系遺伝子の進化生態遺伝学~ヒト、野生霊長類、魚類の感覚進化に注目~

    色覚、嗅覚、味覚、霊長類、魚類、環境適応、遺伝的多様性、進化遺伝学

  • 中山 一大准教授

    人類学・進化医学

    ヒト、ゲノム多様性、環境適応、生活習慣病

ヒトの特徴や多様性の起源を解明する

現生人類(ヒト、Homo sapiens)は約20~30万年前のアフリカに出現したHomo属の1種に起源し、約5万年前にはじまった“Out of Africa”として知られる大拡散を経て、地球上のほぼ全ての陸域への進出を果たしました。ヒトに最も近縁な大型類人猿が、いまだに熱帯の森林を主な生息地としていることと対照的です。生物進化のタイムスケールを考えると、大型類人猿には見られないヒト独特の特徴が、約600万年という比較的短期間で形成されたこと、そして、“Out of Africa”後のわずか数万年で、アフリカ系、ヨーロッパ系、アジア系、さらにそれらの内の様々な民族集団にみられるような表現型の多様性が生まれたことは驚異的です。チンパンジーとの共通祖先から分岐した後、森林からサバンナを経て、様々な気候や風土の土地へと拡散していく過程で、狩猟採集~農耕、遊動~定住、小集落~大都市、石器~現代利器など、ヒトの衣食住環境は目まぐるしく変貌してきました。人類進化システム分野は、医学とは異なり、大部分未解明であるヒトのこういった「正常な」特徴や多様性の起源、進化形成過程、ゲノム基盤を解明することを目標としています。そのために、①感覚系と②代謝系を具体的な切り口として、研究に取り組んでいます。

1. 環境モニターとしての感覚の適応進化

 ヒトの特殊化と多様化において、外界インターフェイスである感覚はどのように適応してきたのか?感覚受容体(センサー)の遺伝子実体が知られている感覚として、色覚(opsin)、嗅覚(olfactory receptor: OR)、旨味・甘味(TAS1R)、苦味(TAS2R)に注目し、それらの進化多様性と相互関係の解明に挑んでいます。多様なヒト集団を対象とするだけでなく、比較対象あるいは解析モデルとして、ヒト以外の霊長類、特にアフリカ・アジアで多様化した類人猿やサル類と南米大陸で適応放散したサル類との対比という視点に興味を持っています。また一方、ヒトから遠縁な霊長類であるメガネザル類、キツネザル類、ロリス類にも注目しています。霊長類の進化的基部(共通祖先のころの状態)を知るのに有効であり、ヒトや他の霊長類たちがそこからどう変わってきたのか、何を獲得し何を失ったのかを知ることができるからです。さらには霊長類から遠く離れて、トゲウオ、テトラ、ゼブラフィッシュ、メダカ、グッピーなどの魚類にも注目し、オプシンから見た色覚進化の研究を広げています。ゲノム解析、集団遺伝学・分子進化学解析、培養細胞発現系を用いたセンサー機能測定、中南米やアフリカでのフィールドワーク、匂い物質の化学分析などの多様なアプローチで研究を展開しています。

2. エネルギー代謝システムの多様性と環境適応

 肥満など生活習慣病は、全ての現代人が発症しうる疾患であり、肌の色や身長などと同様に、私たちが持つごくありふれた多様性のひとつと言っても過言ではありません。各個人がもつ生活習慣病へのかかりやすさ(感受性)は、それぞれが持つ遺伝情報によって異なることが知られています。この感受性を支配する遺伝子多型は、現代人の祖先が経験した環境適応の結果、形成された可能性があります。例えば、ヒトの身体には、周囲の温度が低下しても、体の中でエネルギーを消費して熱を産生し、体温の低下を防ぐ機能が備わっています。この機能は、現代人の祖先が寒冷環境への適応するのに重要であったと考えられています。また、この熱産生機能は、体に蓄えた脂肪をエネルギー源として利用するので、現代的な生活環境では肥満を防ぐ効果が期待されています。私たちや共同研究者の研究から、このような熱産生機能と肥満感受性の両方に関わる遺伝子多型の幾つかが、寒冷地域で生活するヒト集団で過去に適応的であった遺伝学的証拠を発見しています。一方で、この熱産生機能はエネルギーの浪費にもつながるので、寒さはさほどはないけれども飢餓が深刻だった時代には、逆に非適応的だった可能性があります。私たちは、このような寒さや飢餓などへの適応と、現代人の生活習慣病の感受性をつなぐ遺伝子多型の進化遺伝学・遺伝疫学・分子生物学解析を通して、ヒトのエネルギー代謝システムにはたらいた自然選択の実態と、生活習慣病の起源を明らかにする研究を展開しています。